暴行罪の時効はどのくらい?
犯罪の多くには、公訴時効というものがあります。
これは、検察官が被疑者を起訴するまでの期限です。時効期間が過ぎることを時効の完成と言います。
時効が完成すると、犯罪を犯した者は、その事件に関しては処罰される可能性が無くなります。
この記事では、暴行罪とその時効について解説します。
このコラムの目次
1.暴行罪とは
居酒屋で酒を飲みすぎて過度に酔っぱらい、道中や駅で見知らぬ人を殴ってしまった、あるいは、道端で喧嘩になり相手を殴ってしまった…。これらのケースでは、犯人に暴行罪が成立してしまいます。
「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」(刑法208条)
暴行とは、「物理的な有形力の行使」のことを言います。
殴る、蹴る、掴む行為は全て暴行にあたります。その他にも、物を投げる、水をかける、危険な凶器(ナイフやバット)を他人に向けて振り回す行為も暴行に当たると解されます。
暴行罪と聞くと、一緒に傷害罪が頭に浮かぶ方が多いと思います。暴行罪と傷害罪は似て異なる犯罪です。両罪にはいくつかの違いがありますが、最も重要な違いは、相手を怪我させたか否かです。すなわち、同じく物理的な有形力を行使した場合でも、相手を怪我させた場合には傷害罪が成立し、怪我をさせなかった場合には傷害罪は成立せず、暴行罪が成立するにとどまるのです。以下のように、傷害罪の罰則は暴行罪よりもかなり重いものとなっています。
「人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」(刑法204条)
2.暴行罪の時効
暴行罪も他の犯罪と同様に、時効があります。暴行罪の時効が何年か気になる方は多いと思います。
暴行罪の時効は犯罪行為が終わったときから3年です(傷害罪は10年)。そのため、犯行から3年が経過すれば、検察官が公訴する権限は消滅し、刑事裁判で罪を裁かれる可能性はなくなります。
もっとも、これは刑事手続き上の時効の話です。
暴行をした者は、刑事訴訟手続きにおいて刑事責任を問われるだけでなく、被害者に民事訴訟手続きにより民事責任としての損害賠償請求をされる可能性があります。
損害賠償請求権にも時効はありますが、この時効が完成するのは、事件発生から20年、もしくは被害者等が損害の発生と加害者を知った時から3年(傷害を負わせた場合は5年)です(加害者を知った時とは、加害者の住所氏名を知った時です)。
したがって、暴行の犯人が不明などの場合、民事責任の時効のスタートの方が遅くなるので、刑事上の公訴時効は完成したが、民事上の損害賠償請求権の時効は完成していないという事もあり得るのです。
3.暴行罪を犯した場合に本人に生じる不利益
暴行罪を犯した方の中には、「被害者は、俺が犯人とは知らないはずだから、時効が完成するのを待って処罰を免れよう」と考える方がいるかもしれません。
しかし、公訴時効が完成するのを待つのは得策ではありません。
暴行罪の公訴時効は他の犯罪と比べると短めですが、それでも3年です。また、現代社会では技術の発展により、残された犯罪者の証拠を発見・収集・分析することが容易となっているので、たとえ暴行罪でも、犯行がばれずに逃げ切れるとは限りません。
しかも、時効の完成を待ってのんびりしていると、暴行事件の被疑者は、後述のように、早期に罪を認めて示談を成立させていれば十分避けられたはずの多くの不利益を被ってしまいます。
(1) 逮捕・勾留されてしまう
暴行罪を犯した者が、たとえその場での現行犯逮捕を免れても、被害者が被害届を捜査機関に提出すれば、捜査が開始されて犯人であることが発覚し、通常逮捕(後日逮捕)されてしまう可能性があります。
いったん逮捕されると、通常は、引き続き勾留され、最大23日間、身柄を拘束されてしまいます。
この期間中は、警察署の留置場から外部に出る事は出来ません。会社に行くことも出来なくなるので、会社に事件のことを知られてしまう可能性があり、最悪の場合、事実上、解雇される危険もあります。
(2) 起訴され裁判となってしまう
検察官は被疑者を起訴する権限を有しています。
検察官は、犯罪の重大性、被疑者の反省・前科の有無、被害者の処罰感情等を考慮して、起訴処分とするか不起訴処分とするかを決定します。
起訴された場合、刑事裁判となってしまいます。有罪判決を受ければ、懲役刑であるか、罰金刑であるかを問わず、前科として一生記録が残ります。
(3) 被害者から損害賠償を請求される
検察官が起訴をするか否かと、被害者が加害者に損害賠償請求するか否かは別の問題です。
加害者は、公訴時効が完成し、検察官から起訴されなかったとしても、被害者から損害賠償を請求される可能性があります。
請求に応じなければ、民事裁判になることもあるでしょう。
4.暴行罪を犯した場合に弁護士に相談すべき理由
暴行罪を犯してしまった場合、かような不利益を避けるために、早期に被害者と示談を成立させることが非常に重要です。
暴行罪は犯罪とはいえ、幸い、被害者に怪我をさせていない点で、比較的軽い犯罪です。
このため、被害者との話し合いのうえ示談を成立させ、慰謝料を示談金として支払う代わりに、犯行を許してもらい、被害届の提出をとりやめてもらったり、既に提出された被害届を取り下げてもらったりすることで、そもそも事件として立件されなくなる可能性が高くなるのです。
まして、逮捕・勾留されたり、起訴されたりする可能性は大幅に低くなります。
万一、起訴されたとしても示談が成立していれば、書類上の手続だけで罰金を納めれば良い略式手続(略式裁判)となる略式起訴で済み、公開の法廷で裁かれることはなくなる可能性が高くなります。
しかも、正式起訴をされて、公開の法廷で正式裁判を受けることになってしまうと、保釈が認められない限り、起訴後も身柄拘束が長く継続してしまいますが、略式起訴ならば起訴の当日中に釈放してもらえます。
また、示談が成立すれば民事責任の問題も解決済みとなり、以降、被害者から損害賠償を請求されることは無くなります。民事訴訟を心配する必要もありません。
示談交渉は当事者間でも可能ですが、弁護士に相談するのが一般的です。理由は以下の通りです。
①示談について詳しい方はほとんどおらず、示談の方法(交渉の仕方、合意するべき事項、示談書の内容・文言・作成方法など)がわからない
②暴行事件の当事者同士の示談は議論が紛糾するおそれがあり、示談がまとまらないだけでなく、新たなトラブルの種となり、刑事手続上、被疑者に不利な事情として考慮されてしまう危険がある
③万が一、被害者が過大な示談金を請求してきた場合、示談金相場を知る弁護士でなければ、これが適切な示談金額か否かの判断も対応もできず、交渉を決裂させるだけとなってしまう
5.暴行罪は放置せず弁護士へ相談を
暴行と時効について説明してきました。
先述のように、暴行罪を犯してしまった方は、時効が完成するのを待つのは得策ではありません。早急に弁護士に自分のおこないを弁護士に説明し、これからの対応について考えるべきです。
暴行罪を犯した方は、刑事弁護経験豊富な泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。
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