交通事故

子どもの高次脳機能障害|後遺障害等級認定の準備と手続の流れ

高次脳機能とは、体を動かし食べて寝る、と言った最低限の活動を超えた、人間らしい社会的な生活を送るために必要となる能力です。

その高次脳機能に問題が生じてしまい、日常生活に支障が生じてしまう障害が「高次脳機能障害」です。

認知障害(周囲の環境を理解して記憶し、問題を解決するために適切な行動をとることが難しくなる)・社会的行動障害(他人と良い関係を作り、集団の中で自分の役割を果たしにくくなる)といった問題が生じます。

高次脳機能障害に限らず、交通事故で後遺症が残ってしまったときは、治療費などとは別に追加の損害賠償請求をすることができます。

ただし、そのためには「後遺障害等級認定手続」で後遺障害の等級に該当すると認定を受けることが必須です。

子どもの高次脳機能障害は特に分かりにくく、後になって症状が明らかになってくることもあるため、早くから後遺障害等級認定手続を見据えた準備をすることが大切になります。

ここでは、子どもの高次脳機能障害について、症状の基本や子ども特有の注意点を踏まえたうえで、後遺障害等級認定手続の準備や手続の流れを説明します。

1.高次脳機能障害の症状

高次脳機能障害の症状とは、事故前と比べて、高次脳機能障害の低下により生じた日常生活における問題そのものです。

後に説明するとおり、もとから高次脳機能が発達途中で周囲からの援助を受けて生活している子どもの症状に気付くには、以下のようなことについて感じた違和感を見逃さないようにしてください。

【認知障害】
・ついさっきのことを忘れる
・物覚えが悪くなる
・気が散り集中して取り組めない
・行動が衝動的
・物事を順序だてて行うことができない
・書くこと、話すこと、計算が上手くできない
・不器用になる

 

【社会的行動障害】
・感情を押さえられなくなる
・自己中心的な行動が多くなる
・自発性がなくなる

高次脳機能障害の症状は日常生活に生じている問題そのもの。検査で客観的に数値化するなどして明らかにできません。

しかも、人間誰もが長所と短所を持っているものですから、あくまで事故前の被害者様の様子と、症状が治りきらなくなった「症状固定」のときの被害者様の様子を比べて生じている問題をピックアップしなければならないのです。

そして、子どもが高次脳機能障害になってしまった場合、その厄介な性質はより際立って現れます。

子どもは高次脳機能が発展途上です。
大人に比べれば高次脳機能はもともと低いのですから、上記の症状のような行動が事故前からあることはむしろ普通でしょう。

事故前より問題行動が多くなったのか、ご家族でも症状に気付きにくいことがあります。

特にお子様がまだ小学生になっていない幼いケースでは、幼稚園で集団生活を始めてからか、または、小学校で学習を始めてからでなければ症状の内容や程度を完全に把握できないことがあります。

2.症状に気付いたらすべきこと

お子様の高次脳機能障害の症状に気付いたら、すぐに治療や損害賠償請求のために以下の準備をしてください。

(1) 症状の記録

お子様の様子がおかしいと気づいたら、事故前と比べてどのようなことがどうおかしいのかメモに残しましょう。
医師や学校と相談するときの参考になりますし、損害賠償請求のために症状を報告書にまとめるときの材料にもなります。

何がきっかけで、いつ、どこで、だれと、何を、どのように…いわゆる5W1Hを意識した具体的なエピソードとして、お子様の症状を書き出してください。

(2) 医師への説明

症状に気付いたらできる限り早くに医師に伝えてください。

症状に気付くには、「事故前の被害者様の日常生活での様子をよく知っていること」「事故後に長時間にわたり継続して接していること」が必要ですが、医師はどちらにも当てはまりません。
医学知識を持っている医師でも、症状に気付きにくいものなのです。

さらに被害者様がまだ幼いとなると、まだ子どもだからと症状を見逃しやすくなります。

(3) 画像検査の実施

損害賠償請求をするには、高次脳機能障害が交通事故による脳の損傷を原因として生じていると証明する必要があります。
そのために最も重要な証拠が、脳の器質的損傷が分かる画像検査結果です。

しかし、実際に画像検査で異常がはっきりとわかることは多くありません。

画像検査で脳異常を発見する可能性を上げるには、早くから・一定の期間に複数回・状況に応じて・適切な種類の精密MRI検査を受けることがポイントとなります。

(4) 知能検査の実施

知能検査によって、認知障害を確認することができます。子どもの場合は、児童向けウェクスラー知能検査、別称WISC知能検査が主に用いられています。

高次脳機能障害による能力低下が発生しているかを確認するうえでは不可欠の検査です。

もっとも、画像検査ほどの客観性はありません。事故前のお子様の認知能力の検査結果はありませんから、比較ができませんし、社会的行動障害は、知能検査で把握することはとても難しいものです。

症状を証明するには、最終的には家庭と学校での被害者様の様子をまとめた報告書に頼ることになります。

(5) 学校への連絡

担任の教師に、子どもにとって家庭と並んで大切な生活の場であり、家庭以外の社会とのつながりでもある学校での症状を報告書にまとめてもらいます。

今の担任の教師だけでなく、学年主任などより広く、学校と連絡を取り合ってください。
子どもの高次脳機能障害が症状固定に至るまでは、かなり時間がかかる一方、進級などもありますから、事故当時の担任と症状固定時の担任が異なることは珍しくありません。

高次脳機能障害の症状は、あくまで事故前と症状固定時のお子様の様子を比べて把握する必要があるため、二人の担任教師に報告書を作成してもらうことになる可能性が高いのです。

学校での症状の記録のポイントは、①勉強、②要領や計画性・運動神経、③人間関係・行事などへの参加の積極性や自発性・協調性の3つです。
日々のお子様の異常言動を記録するよう依頼し、こまめに連絡を取り合ってください。

3.認定手続の流れとポイント

最後に、後遺障害等級認定手続の簡単な流れとポイントを説明します。

症状判明後の行動が最終的にどのような意味を持つのか、把握するためにぜひご一読ください。

(1) 手続の申請方法

後遺障害等級認定の申請方法には、必要書類や証拠を被害者様が集める「被害者請求」と、収集・手続のほとんどを加害者側の任意保険会社に代行させる「事前認定」の二つがあります。

高次脳機能障害の後遺障害等級認定は難しいことが多いため、積極的に有利な証拠を集めやすい被害者請求を利用しましょう。
被害者請求のサポートは弁護士に依頼するのがお勧めです。

(2) 審査条件

高次脳機能障害は症状があいまいで因果関係の証明も難しいため、一定の審査条件を満たさなければ、「高次脳機能障害」として審査してもらえません。

審査条件を簡単に説明すると、以下のようになっています。

A 最重要書類である「後遺障害診断書」に高次脳機能障害に関する診断がされていること
B 意識障害や画像検査結果など高次脳機能障害に関する事情が、医師により定期的に作成されている「経過診断書」に記載されていて、かつ、症状の疑いが認められること

 

後遺障害診断書は等級認定を受けるためのポイントについて医師がまとめた特別な診断書です。
わずかな内容のニュアンスが認定結果に影響を与えうるため、医師に作成を依頼する前に弁護士から助言を受けましょう。

経過診断書には被害者様も弁護士も作成過程に関わることはできません。
しかし、審査条件として経過診断書に記載が求められている内容は、ほぼ、認定を受けるための大切なポイントと重なっています。

(3) 認定のポイント

高次脳機能障害の認定ポイントとしては、以下があげられます。

  • 画像検査結果で交通事故による脳の異常が認められること
  • 事故直後に意識障害があった
  • 知能検査結果で高次脳機能の異常が認められること
  • 被害者様の周囲の方や医師が作成した報告書で、高次脳機能障害の症状が具体的に認められること

必ず全てが完全に必要とは限らず、被害者様に関する事情を総合考慮して判断されます。

画像検査、知能検査、そして症状の報告書などは、上記のポイントを判断するために不可欠となる提出書類です。

特に保護者が作成する「日常生活状況報告書」、教師が作成する「学校生活の状況報告」は、医学や法律の知識を持たないものの、被害者様に身近な方々が症状について報告する重要書類です。

症状の記録方法や学校との連絡について先ほど説明した内容を軸に、できうる限り充実した記載ができるよう、準備をしておきましょう。

4.お子様が交通事故に遭ったら泉総合の弁護士へ

交通事故に遭ってしまったお子様は、多かれ少なかれパニックになってしまうものです。

とはいえ、そのようなパニックは一時的なもののはず。
もし、事故からしばらくたっても様子がおかしいようであれば、高次脳機能障害を疑ってください。

上手く医師や教師に説明することができない。
説明はしたけれど、後遺障害等級認定手続に必要な検査や報告書について理解してもらえない。
これからの手続の見通しが分からない。

そんなときはぜひ弁護士にご相談ください。

被害者請求で後遺障害等級認定を申請するときは、法律知識を持つ弁護士の助言を受けることでどのような内容のどんな証拠を集めればよいのかが分かります。

加害者側の任意保険会社との示談交渉でも、弁護士に依頼することで損害賠償金の相場を上げ、より高額の損害賠償金を手に入れられる可能性が高くなります。

泉総合法律事務所は、これまで多数の交通事故の被害者の方をお手伝いしてまいりました。経験豊富な弁護士が、被害者の皆様をサポートいたします。

高次脳機能障害に苦しむ皆様のご来訪をお待ちしております。

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