交通事故

交通事故の後から痛み|物損事故から人身事故への切り替えを

交通事故に遭った場合、運転者には警察に事故を届け出る義務があります。
そして、警察に届け出られた交通事故は、「物損事故」と「人身事故」の2種類に分類されます。

物損事故は「車や付属品、車内の物品、道路上の物などは破損しても、怪我人が出なかった事故」のこと、一方人身事故は「怪我人や死亡者が発生した事故」のことです。

怪我人がいるのが明らかにわかるような大きな事故の場合は最初から「人身事故」として扱われる場合もあるようですが、そうではない場合、基本的に警察は「物損事故」として処理することがほとんどです。

しかし、事故の直後に見た目でわかるような大きな怪我がなく、痛みもなかったために「物損事故」として扱われたものの、事故後しばらくして痛みが出てくることがあります。
その場合、診断書を警察に提出して「人身事故」への切り替え手続を行う必要があります。

今回の記事では「物損事故から人身事故へ切り替えるための手続」や「人身事故へ切り替えることのメリット」などについて解説していきます。

1.交通事故の後から痛みが出るケース

骨折や挫傷など、見た目でもすぐにわかるような大きな怪我は別にして、交通事故においては「その場では痛くなかったが帰宅後に痛みが出た」ということも決して珍しくありません。

事故そのものに動揺してしまい、警察や相手とのやりとりの間ずっと気が張り詰めていたりすると、その場では自分の怪我に気がつかないということもあります。

この場合、帰宅して気持ちが落ち着いてきた頃に怪我に気がつく、ということが多いようです。

「時間が経ってから痛みが出る」怪我の代表的なものが、いわゆる「むち打ち」です。
「むち打ち」は正式な傷病名ではなく、通称名です。診断書などには、「頸部損傷」「頸椎捻挫」「外傷性頸部症候群」などと記載されます。

症状は事故の状況によって様々ですが、首や頭、肩などの痛み/しびれ・手や腕のしびれ・めまいや吐き気などが代表例といえます。

2.後から痛みが出た場合の対処法

(1) まずは病院へ行く

交通事故が原因であると考えられるような痛みを感じたら、できるだけ早く病院を受診し、診断書を書いてもらいましょう。

むち打ちの場合は整形外科の受診が基本ですが、症状によっては脳外科や神経内科などの方が良いこともあります。不安な場合は事前に病院へ問い合わせておきましょう。

また、大きな病院だと診断書を即日出してもらえず、「後日交付」という形になることもあります。これについてもあらかじめ確認しておきましょう。

(2) 診断書に記載すべき事項

物損事故を人身事故に切り替えるためには、医師が書いた診断書をできるだけ早く警察へ提出する必要があります。

警察に提出する診断書に決まった様式はないので、交通事故の診断書に必要な内容が書かれていれば大丈夫です。

受診時に「交通事故に遭った。警察に人身事故として扱ってもらうために診断書が欲しい」と言えば、多くの医師は必要な内容をきちんと書いてくれるはずです。

しかし、まれに記載もれなども発生するため、受診時に「この内容について書いて欲しい」と念押しすると安心です。

  • 受診日と受傷日(事故に遭った日)の日付
  • 具体的な傷病の名前 (例:「頸椎捻挫」)
  • 全治までの期間の目安(例:全治3ヶ月)
  • 事故との因果関係がわかるような記述
  • 仕事を休まなくてはならないような状態であればその旨(*年*月頃までは就労不能、など)

そして、この診断書を警察に提出することで、物損事故から人身事故へと「切り替え」をしてもらいます。

[参考記事]

交通事故後に診断書を警察に提出する理由

3.物損事故から人身事故に切り替えるメリット

では、物損事故から人身事故へ切り替えると、どのようなことが変わるのでしょうか。

(1) 慰謝料などの賠償金を受け取れるようになる

物損事故の場合、相手はその「物」に対する損害賠償責任は負いますが、それ以外の処分は受けません。
しかし人身事故になると、加害者が負うべき責任が大きく変わります。

  • 行政処分:違反点数の加算や免許停止など
  • 刑事処分:刑罰が科される(罰金など)
  • 民事責任 :被害者へ賠償金(治療費や慰謝料など)を支払う

被害者にとって重要なのは3つ目の「民事責任」です。
平たくいうと、「物損事故のままだと、治療費などの賠償金を受け取れない」のです。

(2) 実況見分調書を作成してもらえる

人身事故の場合、警察が実況見分を行い、事故の状況を詳細に記録に残してくれます。

この実況見分調書は過失割合についての話し合いなどの際、非常に重要な資料となります。

4.切り替えない場合のデメリット

(1) 加害者側に治療費や慰謝料を請求できないリスクがある

物損事故のままだと、最悪の場合、治療費は全部自分が出すことになってしまいます。

なお、物損事故扱いのままでも、相手方の任意保険会社が人身事故として扱って治療費や慰謝料の支払いに応じてくれる場合もあります。

(2) 事故の状況を説明しにくくなる

物損事故では実況見分調書が作成されないため、過失割合について揉めたときなどに事故の状況などを証明しにくくなってしまいます。

「交通事故で怪我を負ったのに人身事故に切り替えない」のは、被害者にとってデメリットしかありません。
怪我を負ったのであれば、できるだけ早く人身事故への切り替え手続を行いましょう。

5.物損事故から人身事故への切り替え手続

(1) 切り替え手続の方法

切り替えのためには、以下のものを持って、事故現場を管轄している警察署へ行きましょう。

  • 診断書(事故で怪我人が出たことの証明)
  • 事故に遭った車(修理中などの場合は車のナンバーや破損状況がわかるような写真を数枚持っていく)
  • 車検証
  • 運転者の免許証
  • 印鑑

(2) 切り替え手続の期限

明確な期限は定められていませんが、早ければ早いに越したことはありません。可能であれば事故後数日~1週間以内に提出しましょう。

数週間~1ヶ月以上経つと、怪我と事故との因果関係が疑われてしまい、受け付けてもらえないこともあります。

また、人身事故に切り替わると警察と当事者が「実況見分」を行うのですが、事故から日が経つと記憶が曖昧になってしまい、過失割合の主張などもしにくくなってしまいます。

「事故と怪我との因果関係の証明」「事故についての記憶が新しいうちに実況見分を行う必要性」などの観点から、物損事故から人身事故への切り替え手続はできるだけ早く行うべきだと言えます。

(3) 切り替えを受け付けてもらえなかった場合

様々な事情で診断書の提出が遅れたために、「事故から日が経ちすぎている」などの理由で、警察が切り替えを受け付けてくれない場合もあります。

そうなると、警察内でのその事故の取扱は「物損事故」のままとなり、相手の保険会社は「事故による怪我人はいない」と判断して治療費を支払ってくれない可能性があります。

そんな時、「人身事故証明書入手不能理由書」を保険会社へ提出すると、保険会社内では人身事故と同様に扱う(=治療費等の支払いを行う)、という運用をしている保険会社もあります。

どうしても警察が切り替えをしてくれないという場合は、そのような運用がないかどうか、保険会社に確認してみましょう。

保険会社による上記のような救済制度はありますが、様々な側面から考えると、警察に人身事故として扱われていた方が適切に処理してもらえるのは明らかです。
繰り返しになりますが、できるだけ早めに診断書を手に入れ、人身事故に切り替えましょう。

(4) 警察での切り替え手続の注意点

突然警察署を訪れるのではなく、事前に「この事故の件で人身事故への切り替え手続をしたい」という連絡を入れてから出向くとスムーズです。

警察によっては「相手方と一緒に来て下さい」などと言われることもあります。

相手方が素直に応じてくれるのなら当然一緒に行ったほうがいいのですが、相手方が人身事故への切り替えに消極的なこともあります。
また、自分としても相手と顔を合わせたくない、という場合も多いでしょう。

もし「相手が一緒に行くことに難色を示している」「そもそも連絡に応じてくれない」などの場合は、自分1人ででも診断書を持って警察へ行き、事情を話しましょう。

6.交通事故関係のご相談は弁護士へ

物損事故から人身事故への切り替え手続を初め、保険会社とのやりとり、事故後の治療方法など、交通事故でお困りの方は多いものです。
そんな時頼りになるのが弁護士です。

交通事故は怪我の重さや事故時の状況によって、取るべき対応が大きく変わります。弁護士は法律の専門家ですので、事故の状況によって臨機応変に対応することが可能です。

交通事故で困ったことがあれば、まずは弁護士に相談してみましょう。

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