交通事故後に診断書を警察に提出する理由
自分自身がどんなに気をつけていても、「巻き込まれる」という形で遭ってしまう可能性があるのが交通事故です。
では、事故によって車や付属品などが壊れただけでなく、自分自身や同乗者が怪我を負ってしまった場合、医師に診断書を書いてもらい、それを「警察に」提出する必要があるのをご存じでしょうか。
保険の請求などのために診断書が必要、というのはなんとなくイメージがつきやすいですが、この場合、なぜ「警察」に診断書を提出しなくてはならないのか、疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。
この記事では「診断書を警察へ提出する必要性」について解説します。
このコラムの目次
1.交通事故の診断書と警察
(1) 診断書を警察に提出する理由
端的に言うと、診断書を警察に提出する理由は「治療費や慰謝料などの損害賠償を受け取れるようにするため」です。
詳細は下記で説明しますが、診断書を警察に提出しなければ、その事故で負った怪我の治療費や慰謝料などを受け取れなくなってしまうリスクがあるのです。
(2) 診断書を提出する時期
この疑問に対する答えは簡単で、「早ければ早いほどいい」です。
できれば事故直後、それが無理でも可能な限り早く受診し、診断書を書いてもらいましょう。
早めに行くべきである理由は、「事故と怪我との因果関係をはっきりさせるため」です。
例えば、事故から数週間後に「脚が痛い」と思って病院を受診しても、その怪我や痛みが交通事故に由来するものだと証明するのは非常に困難です。
実際に交通事故が原因だったとしても、「事故後にどこかにぶつけたり、別の日に歩いていて捻ったりしたのでは?」などと疑われてしまっては、その後の手続に支障を来してしまいます。
そのため、事故後できるだけ早い段階で受診し、診断書を書いてもらうことが必要なのです。
警察への診断書提出期限について、法律的に決まっているわけではありませんが、上記のような理由から、事故後数日以内、遅くても10日以内に出した方がいい、といえるでしょう。
「交通事故 診断書」などで情報を探すと「後遺障害診断書」という単語が目に入ったという人も多いでしょう。この後遺障害診断書は今回言及した「警察への提出が必要な診断書」とは全く別物ですので、注意が必要です。
この記事で説明している診断書はあくまでも「交通事故で受傷したこと」を証明するための診断書です。
後遺障害診断書は症状固定(これ以上症状の改善が見込めない、と医師が判断した状態)のあと、改めて医師に書いてもらう診断書です。
2.交通事故の診断書への記載事項
交通事故の案件に慣れている医師であれば「交通事故で受傷したので診断書を書いて欲しい」というだけで、ポイントを押さえた診断書を書いてくれることが多いです。
しかし、全ての医師が交通事故に精通しているわけではないので、診断書を依頼する際は、担当の医師に「必要事項については明確に記載して欲しい」と伝えると良いでしょう。
交通事故の診断書のポイントは以下の点です。
- 具体的な傷病の名前(例「後十字靱帯損傷」「鎖骨骨折」など)
- 全治までの期間(例「全治2週間」「全治3ヶ月」など)
- 事故との因果関係がわかるような記述(例「交通事故で受傷」など)
- 仕事ができないような怪我であればその旨(例「*年*月頃までは就労不能」など)
これらの事項が記載されていれば、大抵の場合は大丈夫です。
「記載内容に納得がいかない」という場合は、医師とよく話し合う・別の病院へセカンドオピニオンを求めるなど、適宜対応が必要です。
なお、治療費とは別に「診断書作成費用」が数千円程度必要になりますが、これはあとから治療費とともに相手方(相手が加入している保険会社)へ請求可能です。
領収証などは必ず保管しておきましょう。
3.診断書を警察に提出する効果
(1) 物損事故と人身事故
警察署に届け出のあった交通事故は、大きく2種類に分けられます。
- 物損事故:車や車内の荷物などが壊れただけで、怪我人が発生しなかった交通事故
- 人身事故:怪我人(もしくは死亡者)が発生した交通事故
交通事故によって怪我をした人が存在するのであれば「人身事故」となります。
そしてこの「怪我人がいた」ということを証明するために診断書の提出が必要なのです。
診断書の提出がないと「物損事故」として扱われてしまい、その後の交渉に支障が出る場合があります。
ちなみに、怪我人が発生していると明らかにわかるような大事故は、診断書の提出がなくても「人身事故」として扱われることがあるようです。
(2) 「人身事故」になるとどうなるか
①治療費等の請求ができる
警察の記録上「交通事故で怪我を負った人がいる」と証明されることになりますから、相手と治療費や慰謝料などの話し合いを行えるようになります。
一方、物損事故として扱われると、記録上「この事故による怪我人はいない」という形になってしまうため、場合によっては治療費等の支払いを受けることができなくなってしまうのです。
②警察が「実況見分調書」を作成する
人身事故の場合、警察が事故の詳しい状況を調べた「実況見分調書」を作成します。
その調書で事故の状況を細かく説明できるようになるため、適切な交渉を行うことができるようになります。
(3) 診断書作成・提出時の注意点
①怪我の大小にかかわらず早めに受診・提出すること
先述のとおり、受診および診断書の作成・提出は早ければ早いほどいいです。
事故直後に痛みがなく、時間が経ってから痛みが出てくる「むち打ち」などは、後から受傷に気が付く場合もあるでしょう。
その場合、痛みを感じたらできるだけ早く病院へ行き、診断書を手に入れ、警察署で「物損事故から人身事故への切り替え」の手続を行いましょう。
②整骨院などではなく整形外科を受診すること
交通事故の治療で整骨院などを訪れる人もいますが、整骨院で施術を行う「柔道整復師」は、人身事故にするために必要な「診断書」を書くことができません。
交通事故後は必ず整形外科を受診し、整形外科の「医師」に診断書を書いてもらいましょう。
③相手方には毅然とした対応をするべき
軽傷の場合、相手から「物損で届け出て欲しい」などと言われることがあるかもしれません。
人身事故扱いになると、相手が刑事罰を受ける可能性が出てくるためです。
しかし、そこで屈してはいけません。
「ある程度の治療費なら自分で支払えるし、面倒を起こしたくないから物損でいいか」などと思ってしまう方もいるのですが、交通事故は自分が思っているよりも長期間の通院が必要になる場合も多いです。
本来受け取れるはずの治療費などを受け取れなくなってしまうと、困るのはあなた自身です。毅然とした態度で人身事故の届け出を行いましょう。
④診断書のコピーは必ず取っておく
これは診断書に限った話ではないのですが、診断書をはじめ、領収証や診療報酬明細、保険会社から届いた書類など、交通事故関係で提出・やりとりを行った書類関係はコピーを取り、保管しておきましょう。
4.交通事故関係のやりとりは弁護士にお任せ
このように、警察に診断書を提出すると人身事故扱いとなり、相手に治療費などを請求できるようになります。
ただし、警察は相手との交渉を代理で行ったり、双方の間に入ったりすることはできません。いわゆる「民事不介入」です。
一方、弁護士であれば相手との交渉を代理で行うことができます。交通事故の治療費や慰謝料請求でお困りの方は、警察ではなく弁護士への相談・依頼をご検討ください。
交通事故、と一言でいっても、事故の様態はさまざまで、解決方法も千差万別です。法律の専門家なら、状況に応じて適切な解決策をご提案できます。
熊谷市、深谷市、行田市、羽生市、東松山市、滑川町など、高崎線沿線にお住まい、お勤めの方は、泉総合法律事務所熊谷支店にぜひ一度ご相談ください。
-
2019年5月27日交通事故 交通事故の被害者にとってお得な弁護士費用特約とは?
-
2020年8月26日交通事故 意識障害と高次脳機能障害の後遺障害認定の関係
-
2019年12月9日交通事故 交通事故に遭った兼業主婦の方の休業損害