下肢欠損の逸失利益|損害賠償を減額されたらどう対応すべき?
逸失利益とは、後遺障害のせいで将来仕事や家事に支障が生じるために手に入れられなくなったお金のことです。
下肢、つまり足を交通事故で失ってしまったとき、逸失利益の賠償金額は莫大なものになる可能性があります。
一方で、任意保険会社が示談交渉で逸失利益の減額を強く主張して、本来手に入れられるはずの逸失利益が手に入らないおそれもあるのです。
下肢欠損の後遺障害損害賠償請求をする際には、弁護士に依頼して保険会社としっかりと交渉することが大切といえます。
ここでは、逸失利益の基本を踏まえたうえで、仕事への悪影響の実情・義足(およびバリアフリー化費用など)に関する事情など、下肢欠損の逸失利益に関する示談交渉のポイントを分かりやすく説明します。
1.逸失利益の基本
損害賠償金と言えば慰謝料と考えてしまいがちですが、交通事故の後遺障害の損害賠償金では、逸失利益は後遺障害慰謝料よりも高額になり得るほど重要なものとなっています。
逸失利益の金額は、簡単に言えば以下の式で計算されます。
①基礎収入×②労働能力喪失率×③労働能力喪失期間
①基礎収入は事故の前の年の年収、働いていないなど特段の事情があれば平均賃金です。
②労働能力喪失率とは、お金を稼ぐ能力(家事をする能力も含みます)である「労働能力」が、後遺症によってどれだけ喪失したかを示す割合です。症状の重さに応じて認定される「等級」により目安が決まっています。
下肢欠損では、この労働能力喪失率が問題になりやすいのです。
③労働能力喪失期間は、将来収入が減少する年数で、一般的には事故時から67歳までとされています。
なお、正確には金利を考えた調整がされるため、現実の年数よりも少なめの数字が計算に利用されます。
では、実際に逸失利益の金額はどれぐらいになるのでしょうか?
上記の計算項目はすべて被害者様それぞれで大きく異なるため、ご自身ならばどうなるのかすぐには実感を持ちづらいことでしょう。
そこで、具体的な逸失利益の金額の例を以下の表にまとめました。
- 基礎収入(年収):400万円
- 労働能力喪失期間:32年間(症状固定時35歳。67歳まで32年)
- 弁護士に依頼して任意保険会社に請求
等級ごとの下肢欠損の内容、等級に応じた労働能力喪失率の目安、そして後遺障害慰謝料の金額の目安は以下の通りです。
等級 | 下肢欠損の内容 | 労働能力喪失率 | 逸失利益の目安 | 後遺障害慰謝料 |
---|---|---|---|---|
1級 | 両下肢をひざ関節以上で失ったもの | 100% | 約6321万円 | 2800万円 |
2級 | 両下肢を足関節(簡単に言えば足首)以上で失ったもの | 100% | 約6321万円 | 2370万円 |
4級 | 1下肢をひざ関節以上で失ったもの または 両足をリスフラン関節(足指の骨の付け根の関節)以上で失ったもの |
92% | 約5815万円 | 1670万円 |
5級 | 1下肢を足関節以上で失ったもの | 79% | 約4993万円 | 1400万円 |
7級 | 1足をリスフラン関節以上で失つたもの | 56% | 約3539万円 | 1000万円 |
逸失利益は、少なくとも上記の労働能力喪失率の目安を前提とすれば、後遺障害慰謝料の何倍もの金額になりえることがお判りいただけたと思います。
ただし、上記表の労働能力喪失率の数字は、あくまで目安です。示談交渉や裁判では、被害者様の具体的事情によって大きく変動することがあります。
逸失利益の考慮要素としては、一般的には、仕事の内容・収入の変化・年齢・性別・後遺症の部位・程度などがあります。
下肢欠損の場合、上記の中では「足を失ったことで仕事でどのような悪影響を受けるのか」「事故後職場に復帰してから、実際に事故前よりも収入が少なくなっているか」がポイントとなりやすいでしょう。
2.仕事内容・収入変化で減額された場合の対応
下肢欠損のケースでは、デスクワークには支障が生じないなどとして、保険会社が逸失利益算定の際に労働能力喪失率を低く見積もり示談金を減額しようとしてきます。
それに対抗するには、被害者様の現在の後遺障害の内容や程度はもちろん、仕事の内容やこれまでの職務の経験、そして将来の仕事に関する様々な予測をこれまでのことや現在の状況をもとに積極的に説得的に主張として組み立てなければいけません。
現在の事情としては、まず収入が実際に減っているかどうかが大切です。
減収が生じていて、かつ下肢欠損が原因であると言えれば、労働能力が現実に低下している、そして将来も悪影響が続くと言いやすいからです。
一方、実際に収入が減っていないからといって、労働能力の低下が一切認められないわけではありません。大事なことは現実の収入自体ではなく、労働能力が現在および将来において低下しているかどうかだからです。
減収に代わって労働能力が低下していると言える事情を保険会社に粘り強く主張することになります。
(1) 減収がある場合
職場に復帰したあと、事故前と比べて収入が減ってしまったときは、減収金額・障害がどのように仕事に悪影響を与えているのかなどについて、仕事内容や下肢欠損の部位や程度をもとに、足を失ってしまったことが仕事にどのような悪影響を与え、減収につながっているのか、事実関係の証拠とそれに基づいた労働能力低下の主張をすることになります。
デスクワークだからといって全く足を使わないわけではありません。通勤の負担が増えることも無視できないでしょう。
勤務先が営業職などへの配転を経なければ昇進に支障が生じる人事制度となっているのであれば、営業が困難なことにより将来の収入に支障が生じやすいと言える可能性もあります。
(2) 減収がない場合
職場復帰後の減収がないからといって、労働能力が低下していないとは限りません。
実際には働くうえで大きな支障が生じているものの、様々な事情があって仕事への悪影響が現実に現れないようにするのは当然のことです。
それでも、保険会社は減収が生じていないのだから労働能力の低下はほとんどないはずだと主張をしてきます。
働くうえでの支障を取り除くためにしていること、たとえば、被害者様本人のリハビリや働くうえでの工夫といった努力・職場における、被害者様の障害に対する理解と環境整備などの配慮について、証拠を用意して細かく事情を説明できるようにしましょう。
減収がない場合は、将来の職場での昇進に支障が生じること・将来に転職する際、転職できる業種の幅が狭まっていることなど、将来に関する事情について丁寧な主張立証をすることも、減収ありのケース以上に効果的です。
(3) 義足による減額への対処法
義足は完璧ではないですが、ある程度は無くなってしまった足の代わりになります。
特に近年は技術が発展したため、適切な義足を装着し、医療機関で専門的なリハビリを続けることで、事故前に近い生活ができる可能性はないわけではありません。
そのようなことを理由として、任意保険会社が労働能力喪失率を引き下げようとしてくることがあります。
しかし、義足は足そのものではありません。また、義足の維持や活用にも手間や努力が必要です。
義足をつけても労働能力の回復には限界があります。
義足の性能の限界・義足を利用したリハビリの限界・仕事や日常生活にかかる負担などを、義足を作った際の関係者やリハビリに関わった医療機関の記録などで、証明していきましょう。
なお、逸失利益そのものではありませんが、義足の費用も巨額に上ることがあります。
義足が高性能となればなるほど、労働能力喪失率、逸失利益は低くなりがちなことは確かです。その代わり、義足作製費用や将来の維持費、修理交換費用も、将来、一生にわたって必要になる金額を請求しましょう。
また、「バリアフリー化」のための費用、たとえば、自宅や自動車などに下肢欠損に対応した補助器具を備え付けるなど障害に対応した環境を整備したときは、その工事費用などを請求できることがあります。
労働能力は仕事だけでなく家事などの日常生活も幅広く含む能力です。家事なども家政婦や家事代行サービスに依頼すればお金がかかりますし、家族に頼めばその分家族が働けずに収入が減ってしまいます。
家事も経済的価値があり、家事に支障があれば労働能力の喪失があるとされうるのです。
日常生活をスムーズに送るためにバリアフリー化をしたのであれば、その分、労働能力喪失率が低くなる可能性はあるでしょう。
その代わり、バリアフリー化にかかる費用を、将来の整備費用も含めて賠償請求しましょう。
3.交通事故の下肢欠損は弁護士にご相談を
交通事故で足を失ってしまったとき、逸失利益は慰謝料や義足・バリアフリー工事費用などと並んで高額に上りやすい損害賠償金です。
一方で、仕事や義足に関する具体的な事情次第では、保険会社が労働能力喪失率はさほど下がっていないとして、逸失利益を払い渋ることが目立ちます。
細かな事情とその証拠を拾い集めるだけでは、保険会社に対して法律的な反論を組み立てることはできません。
保険会社は交通事故の損害賠償事件のプロです。
法律の専門家である弁護士に依頼して、保険会社との示談交渉を任せましょう。
保険会社から支払額の提示があったら、保険会社と合意する前に弁護士にご相談ください。
泉総合法律事務所は、これまで多数の交通事故による被害者の方の損害賠償請求をお手伝いしてまいりました。
下肢欠損で損害賠償請求をご検討の方は、ぜひ、お気軽にお問い合わせください。
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