意識障害と高次脳機能障害の後遺障害認定の関係
事故直後の意識障害は、高次脳機能障害で後遺障害等級認定を受けるうえで、手続や認定に有利に働く可能性があります。
もっとも、その意識障害はある程度重く長いものでなければいけません。
具体的には、交通事故直後に「重度の意識障害が6時間以上継続したとき」「軽度の意識障害または「健忘」が1週間以上継続したとき」には、高次脳機能障害の後遺障害等級認定手続で有利な事情となる可能性があります。
(「健忘」とは過去のことを思い出しにくくなることです。)
ここでは、高次脳機能障害の後遺障害等級認定で意味を持つような「事故直後の意識障害」とはどのようなものか、具体的な基準を示したうえで、その役割や限界について説明します。
このコラムの目次
1.意識障害の程度の測定基準
冒頭で述べた通り、重度6時間以上、軽度1週間以上の意識障害が事故直後にあるときは(事故の衝撃が激しく、症状が出ているなど他の事情次第では)高次脳機能障害の後遺障害等級認定の可能性があります。
さて、その意識障害の程度については、測定基準が二つあります。
測定基準の名前 |
基準の内容 |
---|---|
JCS(ジャパン・コーマ・スケール) |
意識障害の重さを数字の桁数で3クラスに分け、そのなかでも3つに分ける |
GCS(グラスゴー・コーマ・スケール) |
意識障害を①開眼(E)②言語反応(V)③運動反応(M)に分類する 意識正常ならE4+V5+M6=15点満点 |
上記の測定基準でどのような結果になれば、「重度」または「軽度」になるか、審査機関が目安を公表しています。
医師の診断書が手に入ったら、弁護士に相談して確認してもらいましょう。
基準を満たすと、他の条件次第では、高次脳機能障害として後遺障害等級認定の審査を受けられるようになります。
また、審査の中でも認定に有利に働くのです。
2.後遺障害認定の審査の基準
(1) 後遺障害認定の審査対象(高次脳機能障害のケース)
普通、後遺障害等級の認定は、被害者様が請求した後遺症の内容を基準に審査されることが原則です。
しかし、高次脳機能障害のケースでは、被害者様が高次脳機能障害であると主張していても、審査条件を満たさなければ高次脳機能障害審査会の審査対象とならず、他の後遺障害(末梢神経の障害、12級や14級など)としてしか認定を受けられないという特殊な認定システムが採用されています。
具体的には、以下のすべてをクリアすれば審査を受けられるという条件があるのです。
- 重度6時間または軽度1週間以上の意識障害があった
- その意識障害が、初診の病院が作成した「経過診断書(医師が定期的に作成して保険会社に送付している診断書)」に記載されていた
- 初診時に頭をケガしていると診断されていた
- 認定機関が事前調査で被害者様及びそのご家族など身近な方に確認した結果、高次脳機能障害の症状があると疑われた
(2) 後遺障害認定のためのポイント
意識障害が審査の条件に組み込まれているのは、高次脳機能障害の認定でプラスになるからです。
では、認定手続の中ではどのような役割を持っているのでしょうか。
後遺障害の認定を受けるための一般的な認定の条件は、以下の3つとなっています。
- 後遺症が残っていると医学的に証明できること
- その後遺症の原因が交通事故であると証明できること
- 後遺症の症状が制度上定められた「等級」に当たるほど重いこと
意識障害は、上記のうち「因果関係」を証明するための事情のひとつなのです。
高次脳機能障害は生まれつきの障害や老化、ウイルス脳炎などによっても生じます。ですから、交通事故による物理的打撃で脳が損傷した、「外傷性」の「器質的脳損傷」が原因の高次脳機能障害なのだと証明しなければいけません。
事故直後に意識障害があれば、事故により脳が損傷したからこそ意識に問題が生じていた→事故による脳損傷があったと言える可能性が生じます。
特に、「びまん性軸索(じくさく)損傷」と呼ばれるタイプの脳損傷では、意識障害が損傷を証明するために大きな役割を果たします。
頭が強く揺さぶられることで神経線維がねじ切れ、脳の機能が大きく損なわれてしまうびまん性軸索損傷では、意識障害が生じやすい一方、画像検査で異常を発見しにくい特徴があるからです。
とはいえ、意識障害だけで高次脳機能障害を引き起こすような脳損傷があったと証明できるとは限りません。
意識障害の程度が軽いケースで、他に因果関係を証明できる事情がない場合、認定は非常に難しくなるでしょう。また、重度の場合はともかく、「意識が今一つはっきりしない」「会話の内容が混乱している」程度の意識障害について、医師が見逃してしまうおそれがあります
後遺障害等級認定手続では、被害者様の事情の一切を総合的に考慮します。「意識障害があったから他の証拠を集めなくても認定されるだろう」「意識障害がなかったから認定されるわけがない、申請はあきらめよう」などとは考えず、できる限り他の証拠も集める必要があるのです。
3.意識障害がなくても画像検査で認定
さて、意識障害と並ぶ因果関係の証拠としては、「画像検査結果」があります。
画像検査で脳の異常が明らかになれば、意識障害よりも直接に脳が損傷したと主張しやすくなります。
ただし、高次脳機能障害はわずかな脳損傷でも重い症状を引き起こすことがあり、画像検査でも異常が分からないことは珍しくありません。
画像検査で異常を発見するため、意識障害の有無にかかわらず、MRI画像検査をできる限り早くから複数回、被害者様の病態や撮影時期などの状況に応じて適切な種類のものを実施しましょう。
とはいえ、画像検査での異常は必ず見つかるとは限りませんし、異常が見つかっても「交通事故による」脳損傷を証明できるとは限りません。
そのため、意識障害が生じているようであればしっかりと医師に伝え、また、診断書に記載してもらえるように伝えることを忘れないでください。
4.交通事故で高次脳機能障害が疑われたら弁護士へ相談を
基本的に、高次脳機能障害の後遺障害等級認定はとてもハードルが高く、認定を受けたとしてもその等級は被害者様の周囲の方々が作成する報告書に記された症状をもとに判断されるため、プロである弁護士のサポートがなければ、適切な証拠収集や報告書の作成は難しいでしょう。
意識障害や画像検査結果について、これまで記載した内容からすると認定が望めるのではないか?
そうお考えになられた方はぜひ弁護士にご相談ください。
弁護士に依頼すれば、慰謝料の基準が高額なものに変わり、その増額が見込めます。
損害賠償金全体についても、自賠責からの支払いには上限がありますから、任意保険会社と交渉しなければいけません。高次脳機能障害は症状があいまいなため、保険会社は積極的に値切ろうとしてきます。
対抗するには、法律の専門家である弁護士に交渉を依頼することをお勧めします。
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