自己破産をすると財産処分される!?
自分では絶対に返済できそうにない額の借金がある場合、「自己破産」をすれば解決できるケースが多いです。
自己破産に成功すれば、借金を原則としてゼロにすることができます(税金など特別な債務を除く)。
しかし、自己破産は決してメリットばかりではありません。
例えば「自己破産をすると手持ちの財産を処分しなければならない」という話をどこかで見た、あるいは聞いたことがある人もいるかも知れません。
そうした話から、「財産が処分されるのは嫌だ、だから破産はできない」とか「自己破産をすると無一文になってしまう」と考えている人もいるでしょう。
果たして自己破産をすると、本当に財産を処分されて一文無しになってしまうのでしょうか?
ここでは、自己破産の財産処分について詳しく解説します。
このコラムの目次
1.自己破産の概要
自己破産とは、裁判所を通じて行う法的な債務整理の1つです。
債務整理とは、借金を減額して貰う手続のことで、その債務整理の中でも、自己破産は、「免責」の許可を得ることで、最も減額効果の高い方法と言えます。
自己破産の手続は、「破産手続」と「免責手続」の2つで構成されています。
このうち、破産手続では、裁判所が(実際には、裁判所が選任した破産管財人と呼ばれる弁護士が)破産申立人の財産を調査し、処分してお金に換え、破産申立人の債権者への弁済(配当)を行います。
他方、免責手続では、裁判所が破産申立人の状況を審査して、借金の支払義務を免除する「免責」を許可するか、または不許可にするかを決定します。
この免責の許可・不許可の判断は、破産手続で債権者へ財産の配当を行い、それでも残ってしまった借金について、免除をするか否かという判断になります。
自己破産においては、免責手続のみをすることはできず、破産手続とセットで行わなければなりません(そのため、自己破産申立書のひな型には、破産手続の申立の文言と、免責許可の申立の文言が、必ず併せて記載されています)。
申立自体は同時ですが、実際の順序としては、破産手続(財産の調査・換価・配当)が終わった後で、最終的に裁判所が免責に関する判断をする、という流れになります。
つまり、借金の免除(免責)を許可して貰う前に、破産手続を経なければならないため、財産を処分されるプロセスをどうしても通らなければならないのです。
以上から、自己破産とは「自分の持っている財産を(裁判所・管財人を通じて)処分して、(配当という形で)債権者へ最大限の弁済を行い、それでもなお残った債務について、免責=支払義務を免除して貰う」ための手続と言えます。
2.自己破産による財産処分
破産手続の内容が前述の通りだとすると、破産手続を取ったら、裁判所に全財産を処分され、文字通りの無一文になってしまうのでしょうか。
しかし、結論から言うと、自己破産をしても無一文になることはありません。
そもそも自己破産は、借金を返しきれなくなった債務者を救済することを(債務者の生活再建・経済的な更生を)目的とした制度です。
それにも拘らず、債務者から全ての財産を奪って無一文で社会に放り出すというのは、自己破産制度の理念や目的に合っていません。
それゆえ、破産手続後の債務者の生活を保障するため、自己破産をしてもなお、一定の財産は処分せずに済みます。
自己破産した後暫くの間は、その財産を使って生活することができるのです(破産手続の時点で持っている破産者の財産のうち、破産手続後も保有が認められる(処分・配当の対象外となる)財産のことは「自由財産」と呼びます)。
それでは、どういった財産を手元に残すことができるのでしょうか?
裏を返せば、どのような財産が破産手続で処分されてしまうのでしょうか?
こうした財産の線引きが、債務者にとっては最も関心があることかと思います。
(1) 処分されてしまう財産
まずは、自己破産によって処分される財産を紹介します。
裁判所によって違うことも多いので、詳しくは地元の弁護士に相談してご確認ください。
- 99万円を超える現金
- 20万円を超える口座残高(全口座を合算した額)
- ローンを組んでいる品物(マイホームや車など)
- 同種の家具類のうち、2つ目以降
- 評価額20万円を超える財産
以下、補足して具体的に説明します。
ローンを組んでいるもの
ローンを組んでいる品物については、厳密には裁判所というよりも、ローンの対象物に関して所有権ないし担保権を持つローン債権者によって回収・処分されてしまう財産です。
ローンを完済するまでは、ローンで購入したものは、ローン完済まで債権者に所有権があるケースが一般的です(住宅ローンのように、ローンの対象物(家)の所有権は債務者にあるが、完済されるまでは対象物に担保権を設定する、という形式もあります)。
そのため、自己破産をするなどで当初の約定通りの支払いが行われない場合、ローンの債権者は、自己の所有権に基づいて、ローンの対象物を回収(引き揚げ)することができます(住宅ローンのような場合は、担保権に基づき家を競売にかけることで、ローン残金の回収を図ることになります)。
このことはローンの契約書などに記載されていることも多いので、念のため確認しておきましょう。
同種の家具類のうち、2つ目以降
同じ種類の財産が複数ある場合は、1つを残し、それ以外は処分されるケースがほとんどです(最低限の生活を保障する意味では、同じものをダブって持たせておく必要はない、ということです)。
例えば、テレビを2台以上持っている場合、テレビを1台だけ残し、他のテレビは処分の対象とする、といった具合です。
評価額20万円を超える財産
これには様々なものが含まれるので、代表的なものを挙げていきます。
- 家や土地などの不動産
- 車やバイク類
- ブランド品や宝飾品、美術品等
- 株式などの有価証券類
- 解約返戻金の額が20万円を超える生命保険等
- 退職金(退職の予定がない場合は、退職金見込額の8分の1相当額が20万円を超える場合)
なお、保険の解約返戻金の20万円基準については、預貯金残高の20万円基準と同様、「加入している全ての保険を合算して解約返戻金が20万円を超えるか否か」という観点で判断されますので、注意が必要です。
その他に、債務者にとって予想外のものが含まれる可能性があるので、繰り返しになりますが、弁護士に相談して確認することが大切です。
(2) 手元に残せる財産
続いては、自己破産をしても処分されない財産を紹介します。
前提として、前章で記載されていない財産は処分されません。
すなわち、99万円までの現金や、総額20万円までの口座残高、時価・査定額が・20万円以下の財産などは、破産しても手元に残せます。
それ以外で手元に残せる財産を見ていきましょう。
- 新得財産
- 差押禁止財産
- 破産管財人が破産財団から放棄した財産
新得財産
新得財産とは、自己破産開始決定後に新しく取得した財産です。
つまり、自己破産開始決定後に得た給料などは処分されません。
破産手続の中で処分の対象となるのは、あくまで自己破産開始決定までに保有している財産です。
よって、自己破産をする場合は、実行のタイミングにも注意した方がいいかも知れません。財産の性質によっては、たった数日の差が、処分されるか否かの行方を左右するケースも考えられます。
差押禁止財産
法律上、差し押さえが禁止されている財産のことで、生活に必要な多くのものが含まれます。破産手続では、こうした差押禁止財産は処分対象外とされます。
具体的には、以下のようなものです。
- 家具家電類(基本的に1種類につき1個まで)
- 食器や調理道具(鍋や釜、包丁など)
- 寝具類
- 衣類(ブランド品など高額なものを除く)
- 生活に必要な食料や燃料(3ヶ月分程度)
- 畳や建具
- 祭礼に必要なもの(神棚や仏壇、位牌など)
- 業務に必要なもの
最後の「業務に必要なもの」は、ケースごとに個別に判断されます。
例えば農家の人であれば農具、漁師の人なら漁具などです。
なお、差押禁止財産には、こうした物としての財産だけでなく、年金受給権など、差押禁止債権と呼ばれるものもあります。
破産管財人が破産財団から放棄した財産
簡単に言えば、「本来は処分対象に入る財産だけれども、破産管財人が処分しないと決めて、処分対象から除外したもの」です。
破産管財人とは、破産手続を実行する人のことです。
裁判所から選任された破産管財人は、破産申立人の財産を処分してお金に換えていきます。
しかし、破産者の財産の中には、お金にならないものや、処分するだけで多額の費用がかかるものもあるでしょう。
そういったものは、わざわざ処分するだけ無駄なので、管財人の判断で処分対象から除外して、破産申立人がそのまま手元に残して良いことになります。
なお、「処分対象に含まれ、価値も十分ある財産だが、それを処分されてしまうと、今後の生活への影響が重大なので、処分しないで欲しい」という場合は、裁判所に対して、自由財産拡張の申立という手続を取る必要があります。
3.自己破産しても手元に残せる財産は多い
ここまで見てきたように、自己破産をしても処分されない財産(破産しても手元に残せる財産)は意外と多いです。
全く財産を処分しないで自己破産に成功し、借金をゼロにした人も大勢います。
自己破産には「同時廃止」と「管財事件」という2種類の手続があり、特に財産がない場合や特別な事情がない場合は、破産管財人が選ばれない簡易な手続きである同時廃止になることが多いです。
同時廃止になった場合は、財産の調査・換価・配当の業務を行うべき破産管財人がそもそも選ばれていないので、財産を処分される恐れが少ないです。
そして、統計的には、自己破産全体の中では、管財事件よりも同時廃止になるケースの方が多いとされています(これは、ほとんど手持ちの財産がない状態で破産を申し立てる人や、借入経緯などに特段問題のない人の方が、破産申立人全体の中では多数派である、ということかと思われます)。
つまり、自己破産によって財産を処分される件数は、自己破産全体の半分以下ということです。
多くの場合は、財産の処分を気にしなくても問題ありませんし、財産を処分される管財事件になったとしても、一定の財産は手元に残せます。
4.自己破産で一文無しになることはない!まずは弁護士へ相談を
以上のとおり、自己破産をしても、財産が処分されるケースは少ないです。
仮に財産が処分されたとしても、当面の生活に困らない程度の最低限の財産は、手元に残すことができます。
どういった財産が処分されるかは、事前に弁護士まで確認してください。
なお、財産の処分以外にも、自己破産には、手続その他の面で多くの注意点があります。
したがって、実際の手続の際に失敗しないためにも、自己破産を検討する際は事前に弁護士へご相談ください。
場合によっては、財産を処分せずに借金を解決することができるかも知れません。
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